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作品たち

かたち

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こんなにも
そこにあるという現実は恐怖だ
その吹っ切れなさこそが
コメディで、リアリティで
どうしようもない程の存在感
愛されるべき一個体
円と線と三角で出来た
かたちのはじまり

 

(私はその当時、芝居の上で、ものすごいスランプに陥っていた。先輩や学校で習うようなテクニックに固められたうそ臭い演技に吐き気がしていたし、もっと生き生きした存在感みたいなものを探したいと思っていた。演劇の短大から俳優座に入ったとき、芝居もやったことのない若い同期の持つ純粋な存在感にぶちのめされた。私も裸になってテクニックなんか全部捨てて突っ込んでいくべきだと思った。でもそれを取ってみたところで私はまだ自分を知らなかったし、そうして光り出すものはまだ何もなかった。だからどちらにもつけない宙ぶらりんのまま訳も分からずもがいてた。違うってことしか分からなかった。それでも本番はやって来る。テクニックに戻ってちゃんとみんなへの責任を果たすことも出来たけど、かたくなにその中途半端なまま舞台に上がりみんなをがっかりさせた。その芝居を良いものにしようとしていた方々やお客さんに申し訳ないことをした。自分を探しに旅に出て、想像もつかなかった方角にいる今、自分がやりたいことなんてとってもクリアだけど、この頃の私には外国語だった。そんな時に舞台へ立たなけりゃいけない恐怖感を自分を慰めるように書いたものです。)