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作品たち

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火星人の哀愁


TVなんかおもしろくない ない ない
夜中のTV  しゃー しゃー しゃー
四角い砂嵐

電じりじりじり ちりぢりり
ニジムシ 這いまわる
見とれて目がよる
たて よこ ななめ
このチャンネル どこに行くのやろか
そんならちょっくら行ってみるか

そして私TVに頭から突っ込んだんです


ああ そんなに痛くはない ない ない
ちくちくちー ぢりぢりぢー
ああ 温まる
TVの電気風呂

デジタル アナログ マテリアル
血行よくなれ 舞い上がれ
あっちに黎明 見えてきた
ありゃ火星の入り口か

そして私 嵐に身をまかせたんです


色不異空 空不異色 色即是空 空即是色
受想行色 やく復如是...


私の身体はもうないけれど
私には見える
雲ひとつない 火星の空
荒れ果てた火星の砂漠に
たった一軒 古びた下着屋
陽に色あせたショーウィンドウ
過去と未来に黄ばんだマネキン
火星人のカサカサに乾いた手の上で
したたる涙は砂にとけてく
風がこだまし無音になると
お日さまギラギラ
なにもかもが灼けていく
黄色い目になみだ
ぶああ
( 荒野にこだます火星人の哀愁 )