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喉の渇いたアスファルトに
2日前から落ちているカサカサのバームクーヘン
遠くで鳴り続けていたサイレンが消えた
私はすっと立ち上がる
少し血が引けてじゅわあんとなる
やっぱりこいつはこの坂を転げ落ちるより仕方ないかな
新しい住宅地の真新しく黒光ったアスファルトの上に
バームクーヘンと共に ここにいる
このバームクーヘンを蹴れ!
でも食べ物を粗末にしたり、公共の場を汚くしたりするのはちょっとやだあ
だめだ、やれ!
ぱあーん!
ぱらぱらに飛び散れー わぁー
でっかいのは物凄く遠くの誰かに当ったようだ
小さい欠片たちはもうそこいらじゅうに
まったく だらしなく
ばらばら死体
もうどうしようもない あぁ
やり切れない なんてこったぁ
いや、ぜんぜん可哀そうじゃない!
いとも簡単に立ち直る
坂の下 日陰の方
緑の荷台が付いたカブに乗ってた配達の男の人
や、あんな遠くまで飛ぶなんてありえない
本当に私なのかな
またこの坂はこんなに急なもんだから、
最近降りてばっかりの私のひざに響くよ
ただごめんなさいという言葉で済ませたくはないんだ
この空気に浮かんでる、言葉や礼儀やうそのつき方や思い込もうとする幸福や
はぁ、そうではなくて
裸にして
本当のコトバで言ってくれ! 殴ってくれ!
ご近所様は誰でもないよ!
意気込んで、真剣に私は彼に近づいた
目をまん丸にし 、猿とか猫みたいに真剣に彼に近づいた
エメラルドグリーンの制服に青いジャンパー
てきとうにバームクーヘンを掃ってから
彼は白いヘルメットを取った
その顔はまったく本当に普通過ぎて覚える事が出来ない
平凡過ぎてどんな顔なのか判断が付かず、
のっぺらぼうとして見える
でもこのテののっぺらぼうは怖いもんじゃない
ただそれだけの事さ
でも彼は罵るでもなく私の身元を聞くでもなく、
右の方を指差した
右に伸びた道は夜なのか、私の絞りがおかしいのか、変に暗い
彼はカブを置いて私を先導する
何も説明がないという事に心地よさを感じる
突然彼は立ち止まり、私を見た
道の横を見て私は口が開いてしまった
真っ赤な宇宙に火の河が右から左へと流れている
「閻魔大王と申します」
「え?」よく聞こえなくて2度も言わせてしまった
やばい 、この河は越えられない
インフィニティの様にいつかは左から右に流れていた河も反対側では反対に流れるのだ
「どちらにしますか」
「どちらにって?」
最近の閻魔大王は自分で決めないのかもしれない
私が決めるんだ
でもどちらにって、何が?
地獄!
そう言う事だ!
そりゃそうだ、もう行った事のある天国より地獄の方がいい
私は地獄を体験する旅に出るのか
私の悪と話すのか
すると閻魔大王はそうっと、鈴をくれた
ありがとう
この鈴をつけて行こう
大丈夫 すべては私とともにある