愛情
あわれな肉体たち
かつては闘志を燃やし、
これからすべてを見るのだ、すべてを蓄えるのだと
大きな器をかかえていた一固体の集団
彼らを癒す器はパン皿のように浅く
すぐにあふれ、幸せに満ち足りる
なんと幸福な人生なんだ
いつ見ても重く閉じられた分厚い古びた彼らの扉は
以外にも、一打ちのノックですぐに大きく開かれる
なんていい人たちばかりなんだ
彼らは生々しい自らの肉片で踏み石をつくり
私を導いてくれる
私はさわやかな笑いを浮かべてから、
その正反対にある暗い階段を登り始める
しかし彼らは前よりも一層喜び勇んで旗を大きく振る
もうやめてくれ
私はあなた達の身をそいで贈られる貴重な肉片も
老いさらばえた足を踏ん張り振られる旗の風も欲しくない
重い なんて重いんだ
期待が重いんではない
やせ衰えた彼らが自分のを剥いで差し出されるその毛布が重いのだ
私は逃げ出した
ただ足元の階段だけを見つめ必死に登った
行けども行けども階段は同じ色を繰り返し
私の瞳孔は開いたまま
すべてが回り始めた
鼓動と心臓が、
見つめる階段と登っている階段が、
違うリズムで反復し始めた
止まりたくない
止まらないぞ
私の腰はくだけ
重く固い熱いかたまりを肺にかかえて
四つんばいになり
それでも這い上がろうとする私に
そうっと上から毛布が掛けられた
ああああぁ、私は今、高い高いところにいて、
あなた達に私が毛布を掛けてやるのかと思っていた
くそっ 私は毛布を握りしめた
しかし決して認めた訳ではない 触るな
私を見て微笑むな
そのとき
カラカラの偏西風が
私の頬を思いっきり殴りつけた
私はほくそ笑み一服した
(東京にいた頃のもの)