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作品たち

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出合った人

宮古島にいたとき、石山さんという彫刻家に会う。
ある日、暗闇の中、よれよれのTシャツを着てママチャリで現れる。
アイヌの人で若い頃からいろんな所で暮らし、宮古はもう3年程経つらしい。49才、まつ毛が長くて彫りも深くて、肌の色と皺の数は年以上。しけもくをポケットから出して吸う。いつも飲んでて、うつむきながら、目を合わさずに一生懸命力一杯話す。感情が先走り、うまく話せず、高揚し、じっと黙ったりする。人の話もうつむきながらじっと聞いてくれて、突然大きな声で感動してくれる。
小さい頃、森で一緒に遊んでいた小熊が殺された時の事とか、西洋医学が信じられないからって息子を病院に連れて行かず下半身不随にしてしまった事とか、それで離婚になっちゃったとか悲しい話も一杯あった。あと何年かしたらカンボジアに行き、ストリートチルドレンに彫刻を教えるんだとか、年なんか関係ないバイタリティ溢れた話も一杯あった。隣に住むトヨさん家から電気を引かしてもらい、赤瓦の空き屋に野良猫と二人で、彫刻を売ったお金やみんなの助けにお世話になりながら暮らしてる。かつて持っていた高い自分のプライドに苦しみ、今だ分かりきれない自分をやっつけたいと言う。
ひと月程、私はこの人に彫刻を習った。拾ってきた流木の板を彫った。人間の体で鼻の短い像みたいなものが体をビニョーンと曲げて小さい花の香りを嗅いでいるところを彫った。俺は何にも教えれない、彫刻刀の使い方だけを教えると言ってたけど、大分終盤になってからこんなのいらねえとか言って、花をじょりって取っちゃった。びっくりしたけど、その方が体の動きだけが際立ってかえって力強くなった。
東京で白くひょろひょろ育ち頭でっかちな激しい戦争に巻かれていた私にはこういう人の存在はすごく貴重だった。
今どうしてるのか、どこにいるのかも知らないけど、ありがとうございました。